【話す機会を逃したシリーズ】小学校の掛け算順序問題について

 年に3回くらいはTwitterで炎上する話だが、今回は掛け算の順序問題の話をしようと思う。
 

 もはや説明するまでも無いとは思うが、一応説明しよう。「みかんが1箱あたり3つ入っています。4箱あるとき、みかんはいくつあるでしょう。」当然答えは12個で、これ自体は疑う余地のない事だが、式を書くときに「3×4」とすべきであるという派閥が一定数いる、という話だ。どういうことかと言うと、算数においては「かける数」とかけられる数」が明確に区別されており、式では「かけられる数×かける数」と書かなければならない、ということだ。つまり、「1箱あたり3つ」がかけられる数であり、「4箱」がかける数だ。

 子供を小学校に通わせている親が、この理不尽なローカルルールで子供が×を貰ってきて、そのたびにTwitterで話題になり、共感を呼ぶ。しまいには数学界の大物教授まで出てきて、「なにがいかんのだ?」と。かく言う私も気持ちはわかる。「その程度のことで・・・」と思うのは尤もだが。

 私はあえて、このローカルルールに罪はない、という立場を取る。逆張りではない。当然理由もある。

 まず、Twitterで共感を得ている人々は、全員間違いなく「かけられる数」と「かける数」の違いを明確に理解した小学生であった、ということだ。その数学教授もそうだったに違いない。そして、数学的にはこれらに単位を付けて区別することができる。3個/箱 × 4箱 = 12個でも、4箱 × 3個/箱 =12個でも違いはない。
 算数でも同じのように見える。しかしここに罠があり、算数では掛け算の次に割り算を学ぶ。つまり、個/箱 × 箱 =個となる式自体が存在せず、従ってこの時点でこれを書くことができない。結果、ただ3×4または4×3と書くしかない。そう、この状態では「1つの箱に3個あり4箱」と「1つの箱に4個あり3箱」の状態を区別することはできない。
 これは一見どうでもいいように見える。しかし、これを疎かにした場合、割り算で躓くことになる。割り算では12(個) ÷ 4(箱) = 3(個/箱) と、12(個) ÷ 3(個/箱) = 4(箱)という2つの式は、明白に区別される。ここで「かけられる数」と「かける数」が大事になる。
 これを分かっていない子は、割り算と分数の分野で間違いなく躓く。(整数の範囲だと、大きい数から小さい数を割ればいいと思い込む子が一定数存在する。逆も存在するとなると突然混乱する。)なので掛け算の時点であぶり出す必要がある。私が掛け算の順序の必要性があると思う理由はここにある。
 ×を貰ってきた子だろうが、親だろうが、数学の教授だろうが、それは全員「できる子」である。彼ら(君たち)が×を貰おうと割り算で躓くことはないだろうし、そもそも小学校の授業は「できる子」に合わせられていない。そのあたりのバイアスというものも考慮しないといけない。


 私としては、確かにそういった子たちがしょうもない問題で×を付けられるのも不快ではある。こればかりは日本の教育制度が後進者に合わせるシステムになっているのが原因で、掛け算の順序問題も、先生が一人一人に向き合って理解しているか確かめることが出来れば、ゴミ箱に投げ捨ててもいい話だ。なので、一刻も早く余裕のある教育制度か能力別編成の導入を期待したいところではあるが・・・あの文科省が、それほど大規模な改革を実施できるとは思えないし、する気も無いだろう。




追記

この話は、算数_教育上・実用上の概念と、数学_学術的な視点の混在が原因と考えています。今一度その視点は「数学的な厳密さ」から出たものではないか、考えて頂ければと思います。